“勘違い”するな

 先日、もはやいつ以来かわからない、「人に対して怒鳴る」ということをしてしまいました。専門学校での授業中のことです。

 ベンチプレスの補助の仕方について、ふたりの学生が言い争いをはじめた、というシチュエーションでした。片や勉強熱心な、でもちょっと「頭でっかち」なよくいるタイプの(苦笑)生徒、そしてもう片方はフィットネスクラブでアルバイトをしている、ちょっぴりトレーニング経験のある生徒でした。
 おたがいにそれなりの自信やプライドがあったのでしょうが、経験の少なさもあってか、他人へのアドバイスの仕方や言葉の選び方が拙く、結果として見苦しい口喧嘩のようになっていたのです。

 目の前でベンチプレスをしている、別の生徒そっちのけで。

 授業を預かる講師としては、それが何よりも許せませんでした。
 当たり前ですが、トレーニング指導者は「Player's first」(選手/トレーニングする人を最優先)の心を絶対に忘れてはいけません。ましてや目の前で、何十キロものバーベルを持ち挙げている仲間がいるのです。彼らのちっぽけなプライド、自信と勘違いしている“過信”によって、その人が大怪我をする恐れだってあったのです。
 幸い、ふたりともすぐに過ちに気付き、理解してくれました。他の生徒たちも、むしろ嬉しいことに、「伊藤先生に申し訳ないよ」とまで言ってくれました。

 指導先の部活で、顧問の先生がよく仰る言葉があります。

「勘違いするな」。

 かく言う自分自身も、この落とし穴に陥りがちです。ありがたいことに、この業界で10年以上もお仕事を頂いていますが、私などはただそれだけの存在です。ナショナルチームに帯同したこともなければ、どこかで表彰されたこともない、「ちょっとだけ身体の鍛え方を知ってるオッサン」にすぎません。いつかも書きましたが、トレーニングコーチなんていう職業は世間的には、「バーベルの担ぎ方を教えるだけの変な仕事」なのです。

 怪我の功名ではありませんが、この一件のおかげで、それを再確認することができました。

 あの日以来、我がクラスには講師/生徒双方の心意気として、

『Be Humble(謙虚であれ)』&『勘違い禁止』

の標語が掲げられています(笑)。