『自分を安くするな』
いつもの『トレーニング格言シリーズ』というわけではありませんが、私がダンサー時代(!)に教わって、今でも大切にしているこの言葉を今回はご紹介します。
当時、私は大手テーマパークでパレードなどに出演させてもらっていました。一日に何万人もの方々が来てくださる場所ですし、なかには常連の方もいらっしゃいます。そしてそのなかには、いわゆる「パレードマニア」、「ダンサーマニア」のような方もいて、我々のような一介の出演者にもファンレターやプレゼントが届くことが頻繁にありました。
ただ、応援してくださるのは嬉しいのですが、そういった常連の人々の中には、毎回のように自分のお気に入りのダンサーが踊るポジションに、なぜか陣取っている人がいるわけです。当たり前ですが演劇やバレエの公演とはちがうので、その日に出演するダンサーが誰で、どこのポジションでパレードに参加するかなどというのは、お客様にはわからないはずです。それなのに毎回同じ人が目の前に、いる。
おそらくは何らかの手をつかって、当日の出演ラインナップを手に入れていたのでしょう。パレードに携わる人は裏方さんも含めて何百人といるわけですし、どこかから情報が漏れてしまっていたのかもしれません。
そんなとき、ひとりの振付師の方が我々を前にして言ったのです。
「自分を安くするな」
その人は、こうも言ってくれました。
「当たり前だけど、俺はみんなを信じている。少なくとも、出演者の中からそういう情報が漏れたとは思っていない。だからみんなも、誤解を生むような言動はしないでくれ。自分を安くしないでくれ。ルールを破るようなこと、仲間に迷惑をかけるようなことをする人間は、それを求めるような相手にその時だけは喜ばれるかもしれない。でも結局は、“そういうことをするヤツ”だって誰にだって思われてしまうんだ。一時だけいい顔ができても、それはやっぱり、自分の価値を自分でさげてしまう行為なんだ。俺はみんながそんなやつじゃない、自分で自分を安くするようなダンサーじゃないって、信じているよ」
ダンサーを引退してトレーニング指導員となった今でも、この言葉は忘れられませんし、おそらくはどんな職種にも相通じるものだと実感しています。
選手やクライアントの健康を度外視したような、極端な減量方法やおかしなトレーニング方法でそのときだけ注目を浴びること、できもしないことや相場とかけ離れた低価格の仕事でも安請け合いしてしまうこと、etc,etc。
そんなことをする人は、「自分を安くする」トレーナー、トレーニング指導員に他なりません。結果として、「自分(たち)は大したことない指導員ですよ」と高らかに喧伝してしまっているわけです。
どこかの競技場建設ではありませんが、一見派手なこと、一時的な注目を浴びることだけ考えるならば簡単です。でもそれは、張り子に過ぎないことが必ず露見するのです。
この業界に足を踏み入れて、やっと10年ちょっとが経ちました。まだまだ(価値や評価の)「高い」指導員にはほど遠いですが、少なくとも自分で「自分を安く」することのないよう、引き続き研鑽に励んでいきたいと思う、今日この頃です。