【トレーニング格言シリーズ②】“悪いエクササイズ”はない。“悪い教え方”がある。

 トレーニング界の名言・格言をご紹介する不定期シリーズ、第二回も第一回に引き続き世界基準(?)の名言です。

 “悪いエクササイズ”はない。“悪い教え方”がある。

 実はこの言葉を、私は別の言い方で教わりました。米国NSCAの元理事長、Lee E.Brown氏の講演を拝聴した際、レスリング選手が行っている「レスラーブリッジ」(画像参照)の画像とともに、

 「一般の人がやれば、これは危険なエクササイズと言われるでしょう。しかし経験を積んだ格闘家やコンタクトスポーツの人たちにとっては常識的、かつ必須のエクササイズであることはご存知の通りです。何が言いたいかと言うと、マニュアルを一方的に解釈してなんでもかんでも“あれをやってはダメ”、“これは危険です”などと取り締まるばかりがトレーニング指導員の仕事ではない、ということです。フィットネスジムによくいますよね、そういう人(笑)。なんでも取り締まりたがるそんな人を我々はエクササイズ・ポリスと呼んでいます。もちろん、逆に安全性をそっちのけにして明らかにその人の能力を超えたエクササイズを処方するのも問題外です。大切なのは、安全性とエビデンスを踏まえた上で、現在のその人に適していると思われるエクササイズとそうでないものを取捨選択していくことではないでしょうか。皆さんも、エクササイズ・ポリスにならないで下さいね」

 といったことを仰っていたのです。その後、日本の先輩指導員の方々からも全く同じ考え方を「“悪いエクササイズ”はない。“悪い教え方”がある。」という言い方で教わり、本物の指導員の考え方はやはり万国共通なんだなあ、となんだか嬉しくなったものです。

 また、この考え方はシリーズの前回で取り上げた『当たり前のことを、当たり前に』と一見相反するように見えますが、決してそうではありません。むしろ当たり前のことを当たり前に出来るからこそ、

「エクササイズ・ポリスが見れば取り締まるだろうけど、このアスリートさんでこの環境ならクイックリフトにチャレンジしてもらってもOKかな。」

「プッシュアップ・ジャンプですか?ゆくゆくは入れたいんですけど、今の筋力や動作だとまだ危険ですからやめておきましょう。今年中にチャレンジ出来るようになるのが目標ですね。」

といった判断や指導が可能になるわけです。

 例えば、現在すっかり浸透しているレッドコードやTRXなどのサスペンション系エクササイズは、一昔前ならきっと「危ないからやめて下さい」と言われてしまうことでしょう。クイックリフトなども同様です。しかしこれらの多大な有用性・汎用性はご存知の通りですし、実際に多くのアスリートやトレーニング愛好家が積極的に取り入れています。逆に、トレーニング初心者の人がバランスボールの上でスクワットをしようとするような場合は、我々指導員は危険性を伝えてストップしなければなりません。

 こうして星の数ほどあるエクササイズバリエーションの中から、安全性も含めての「当たり前」を前提にしつつ、その対象者に取ってモア・ベターなトレーニング(何がベストなのかは一概には言い切れませんから…)を考える作業は実に難しく、試行錯誤=トライアル&エラーの連続です。

 私などはトライアル&エラーどころかエラー&エラーの日々を過ごしていますが(苦笑)、そんな中でも、エクササイズ・ポリスになって“悪いエクササイズ”を一方的に規定したり押し付けてしまうような“悪い教え方”にだけは陥らないようにしよう、とこの言葉もことあるごとに思い出している次第です。