【トレーニング格言シリーズ①】 「当たり前のことを、当たり前に」
今回から、不定期連載としてトレーニング指導にまつわる名言・格言を取り上げてみたいと思います。
第1回目は、どなたが言い出したかは定かではありませんが(私は駆け出しの頃、東海大学・有賀誠司先生のセミナーではじめて教えて頂きました)、名言中の名言といってもいいでしょう、やはりこの言葉を取り上げてみます。
“当たり前のことを、当たり前に”
いつぞやのコラムでも触れたとおり、インターネットをはじめ様々なメディアから様々な情報を手に入れることが出来るようになった現在では、スポーツ業界・フィットネス業界でもファッションや飲食の世界と同様に、“トレンド”と呼んでもいいトレーニングメソッドやキーワードが百花繚乱の如く生み出され、そして消えていっています。
しかしながら、例えば有名スポーツ選手や芸能人の方々が実践しているエクササイズは、あくまでもその時の彼ら・彼女らにとって効果が出たものであり、いくらトレンド化しているからと言ってそれをそっくりそのまま真似するだけでは、誰もが同じような効果を得られるとは限りません。結果として、
「〇〇ダンスのDVDどおりに骨盤を意識して踊ってたら、逆に腰が痛くなったんですが…」
「本に書いてあるやり方で長く息を吐いても、体脂肪率が全然変わらないんですが…」
などのご相談を我々身近な運動指導者が頂くことになってしまいます。
そんな時でも、機能解剖学やバイオメカニクス、ベーシックなエクササイズ実技といった、言わばトレーニング指導員としての“当たり前”をしっかりと学んだ経験があり、そこに立ち返ることが出来れば、
「ああ、その“骨盤を動かしましょう”っていうのは恐らくこういう狙いですから、代わりにこのエクササイズでもいいと思いますよ。」
「そりゃあ、息を吐くだけでは人間やせませんよ(笑)。でも、あの本で意識したお尻の筋肉や、お腹が薄くなるイメージを使って筋トレや有酸素運動を行えば、より効果的ですよ。」
などのアドバイスを自信を持って行うことが出来るのは、言うまでもありません。
トレーニングプログラムの作成に関しても同様です。一見難しそうで、いかにも「専門的なトレーニングしています!」といったエクササイズは、前提としてスクワットやプッシュアップ、クイックリフトなどに代表される“当たり前”のエクササイズが出来なければまともにフォームを取ることすら難しいことがほとんどですから、まずはそうしたシンプルなものに粘り強く取り組んでもらう必要があるわけです。
この考え方は、何もトレーニング指導に限ったことではありません。病院に医師がいるのと同様、ジムでは専門の運動指導員が、スポーツ用品店ならば商品に詳しいスタッフが相談に乗ってくれるのもまた、“当たり前”のはずです。人様のお身体に関わるスポーツやフィットネスの世界は、飲食店のように「未経験者大歓迎!」とはいかないからです。
しかしながら、現在のフィットネスクラブや公共施設の多くは、この“当たり前”すら守られていません。「レッグプレスっていうのをお客さんに聞かれたんですけど、どれですか?」というような学生やフリーターが、“ジムトレーナー”と書かれた名札をぶら下げてお金をもらっている、それこそトレンド風(?)に言えば、ブラックな業界なのです。
こんな光景を見ると、悔しくて、恥ずかしくて、そして何よりもその一員として申し訳なさで一杯になります。「俺たちの業界は、こんな“当たり前”すら守れないのか!?こんなことしてお客さんからお金を頂いて、恥ずかしいと思わないのか!?」と…。
一人のトレーニング指導員として、スポーツ界・フィットネス界の一員として私自身、もっともっと
“当たり前のことを、当たり前に”
実現できるよう頑張っていきたいと、この言葉をいつも大切にしています。