コラム:ランジと健さん

 ご覧になった方も多いと思いますが、少し前に俳優の高倉健さんの密着ドキュメント番組が放映されていました。若い人たちにとっては、渋くてカッコいい映画界の大ベテラン、といったくらいの認識になってしまうのかもしれませんが、年配の方々にとってはそれ以上の存在、文字通りの“銀膜の大スター”「健さん」であり続けている様子が、ロケ地の方々と触れ合う様子などから垣間見えて大変興味深かったです。

 何故こんな話をしたかというと、自身のトレーニング指導においてこの番組に大いに助けられたからに他なりません。
 介護予防教室からデイサービスでの運動指導まで、高齢者の体力トレーニングを担当させて頂く機会が最近は多いのですが、人生の先輩であるこうした方々は言うまでもなく『網走番外地』や『八甲田山』を見に映画館に足を運んでいた「健さん」と同世代、もしくはそれに近い年代の方々です。

こうした方々に対して、例えばランジを指導させて頂く際に、
「健さんの番組見ましたか?81歳(!)なのに、ひょいひょい階段登ってロケ先をお散歩してましたよねえ。片脚でご自分の体重をしっかり支えられるように鍛えておけば、あんな風にいくつになってもどこへでも歩いていけるってことですね。と言うわけで、このエクササイズで“目指せ健さん”です!」

などとお伝えすると、「あんなに格好良くないよ〜。」などと言いながらも満更でもない表情で取り組んでくれることが多かったのです。

反対に、野球部の中学生などには 「イチロー選手の“レーザービーム”を見ると、前脚をしっかり踏み込んで助走の勢いを投げる動きに繋げてるでしょう?ランジで下半身を鍛えることは投球動作にとってもすごく大切なんだよ。」
とスポーツ選手の例を出したほうがイメージしやすいことでしょう。

 エクササイズの狙いやポイントをシンプルに分かりやすく伝える、というのは本当に難しい作業です。我々トレーナーにとって永遠の課題と言っていいかもしれません。ましてや、前回も書いたとおり「トレーナーの常識=世間の非常識」である場合も少なくありませんから、たとえ話一つ出すにしても相手の立場や目線を忘れないことがとても重要になってきます。人によっては、健さんでもイチロー選手でもなく「畑仕事で鍬を上手に使えるように」と言った方がランジの動作が伝わりやすい場合だってあるかもしれません。

 いずれにせよ、素晴らしい身体の使い方や美しい立ち姿を見せてくれる様々なプロフェッショナルの人たちを参考に、エクササイズテクニックのみならず、言葉の引き出し、伝え方のバリエーション、とでもいうべきものももっと増やさねば…と、一筋縄ではいかない(?)お元気な高齢者の方々に鍛えられながら痛感している昨今です。  

 そんなことを考えながら番組を見ていた人間がいるなんて、健さんは思ってもいないでしょうけど(笑)。