コラム:もっと、お金の話をしよう

 私はお金の話が大好きです。

 相変わらずのっけからふざけたことを…などと思われるかもしれませんが、実は真面目な話です。もちろん、決してイヤラシイ意味でもありません。まだまだ駆け出しもいいところですが、アルバイト時代も含めてほんの10年間だけトレーナー業界・フィットネス業界というところで仕事をさせて頂く中で感じていることなのです。

 今や沢山のトレーナー団体が活動し、そのほとんどが「トレーナーという職業の社会的地位向上を目指す」といった類のことを高らかに謳っています。また、実際にそのための地道な努力を続けていらっしゃる方々も少なくありません。本当に素晴らしいことです。

 では、具体的にトレーナーという職業がどうなれば、“社会的地位向上”を果たしたと言えるのでしょうか。様々な価値観があるので一概には言い切れませんが、

①:医師や弁護士と同様に、「沢山勉強して、難しい試験に合格しなければならない特殊専門職」という認識・尊敬を大多数の人に抱いてもらえるようになる

②:①に伴い、スポーツ科学を通じて多くの人をサポートするだけでなく、多くが一千万円以上、人によっては億単位の年収を得られる位になり、職務内容・収入両面で若い世代にとっての憧れの職業の一つとなる

といったことが実現すれば、まあ、多くの人々はトレーナーが“社会的地位向上”を今よりも果たした、と思ってくれることでしょう。①に関しては、不特定多数の人の、それもイメージが相手ですから、それこそ地道な活動を継続していくより他ありません。が、しかし、②に関してはその地道な活動の中でも、まだまだ意識的に改善できる、最低限の部分があるのではないかと思うのです。

 それが、「お金の話」です。

 世間では意外に知られていないことですが(知られていないことにも最初は驚きました)、昔ながらの徒弟制度的な慣習も根強いトレーナー業界では、報酬や必要経費といったお金の部分に関して、具体的な話がハッキリと早めに提示されることが少なかったりします。自身の体験や周囲から聞いた事例だけでも、

・給与未払い
・契約期間満了が近づいているのに、更新か終了かといった来期の話が全くない
・交通費や諸経費の申請方法に関しての話がない(そもそも支払われるかどうかすら分からない)
・報酬どころか、結果としてほぼ手弁当での活動になってしまう
etc…

と、枚挙に暇がありません。例えば、報酬面で本人が「今回はボランティアでいいですよ。」などと無給を納得していたとしても、では交通費はどうなるのか、そもそも最初の段階で「無給で交通費しか(すら)出せないけどやってもらえるか?」といった話をした上でなのか(なし崩し的に、「自分からは言いづらいし、もうボランティアでいいや…。」などとなっていないか?)、といったことがあやふやだったりします。

 ここで絶対に忘れてはいけないのは、お金の話は「使われる」側からは非常にしにくい、ということです。特に、年齢的にもキャリア的にも若い立場なら尚更です。仮に疑問に思ったとしても、20代の若手トレーナーが40代の事業部長や50代の先輩トレーナーに対して、「確認させて頂きたいのですが、交通費は支給されますよね?」、「テーピングなどの消耗品経費はいくらまで認められますか?申請方法はどうすればよろしいですか?」などと遠慮なく聞けるでしょうか。よほどの豪傑(?)でない限り無理な場合がほとんどでしょう。

 逆に言えば、最初から「報酬はこの額で考えています。月末締めの翌月20日支払い。銀行振り込みなので後で口座番号を教えて下さい。」、「交通費は〇〇円までなら全額支給。申請フォーマットは契約後にメール送付します。消耗品等の経費は××円まで確保していますが、具体的に何が必要になりそうかを△△日までにリストアップしてもらえますか?」といったように、お金のことまでしっかりと説明してくれる相手ならば、たとえそれが合意=仕事を受託するには至らなかったとしても、よっぽど信頼できるはずです。

 サラリーマンなど一般社会人の世界では当たり前のはずのこうした部分すら、アバウトになってしまいがちなのがトレーナー業界の現状なのです。本当に残念です。「社会的地位の向上」を謳うなら、まずはその社会人としての当たり前の部分を出来るようにならなければなりません。そしてそれは、我々の小さな意識の積み重ねによって上記の①よりもよっぽど素早く改善できるはずだと思うのです。

 以前も別の話題で触れましたが、誰かに何かを頼むということは、その人の手間と労力、そして時間という、言わば「人生の一部」を提供してもらうことに他なりません。その対価をあやふやに、なし崩しに、していいわけがありません。報酬も、必要経費も、やましいことなくオープンに話し合えばいい。最初にそうした方が、お互いに安心と自覚を持って職務に励めます。少なくとも自分自身はそうした会社や個人の方々と今後もお仕事をさせて頂きたいと思っています。

 信頼できる相手に出会えるから。一人の社会人としての自分を再認識できるから。

 だから私は、お金の話が好きなのです。