コラム:ファンクショナルって何だ!?
最近、フィットネスクラブの新プログラムやスタジオレッスンなどで『ファンクショナル』を謳い文句にしたものを目にする機会が増えています。曰く、「話題のファンクショナル・トレーニングを体験!」や「最新のファンクショナル・エクササイズにも対応!」etc...。 これだけ見るとなんだかいかにも最先端の特殊なトレーニングのようですが、そうした誤解について、そして『ファンクショナルトレーニング』とはそもそも何なのか、ということについて簡単に解説してみたいと思います。
ファンクショナルトレーニングとは、大雑把に言ってしまえばその名の通り『ヒトの身体として理にかなった、よりスムーズで機能的(ファンクショナル)な動作を考えてトレーニングすること』と捉えられています。
例えば、ゴルフ愛好家の「スイングの時にいつも腰が上手く回らなくて、飛距離が出ないどころか腰痛になっちゃって…」という悩みに対して、“ヒトとしてのスムーズな動作”という視点から考えてみると、
①そもそもヒトの腰(腰椎)はほとんど回らず、その上下にある胸の部分(胸椎)やお尻の部分(股関節)で身体は回るように出来ている
②にも関わらず無理矢理腰で回している
③本来スムーズに回る(動く)べき胸の部分や股関節の柔軟性が不足していることこそ原因なのでは?
といった原因が見えて来るかもしれません(もちろん弱点は人それぞれなのでトレーナーの側に“見る目”が要求されます)。そうしたら、それらを改善するようなエクササイズ(コレクティブ・エクササイズと呼んだりします)を処方し、指導していくわけです。ファンクショナルトレーニングが“筋肉を鍛えるのではなく、動作を鍛える”と言われる所以です。
これが逆に、フィットネスクラブでよくある光景のように、「腰が回らないんですか? じゃあ腹斜筋を鍛えましょう! こちらのロータリートーソを…」などと不勉強なアルバイトスタッフがインスタントなアドバイスをしてしまったりしたらどうでしょう。状態を改善するどころか腰痛を悪化させてしまうことにもなりかねません(もちろんロータリートーソも使い方次第では有効なマシンです)。
繰り返しになりますが、『◯◯筋』や「××の筋肉」というように部分部分の筋肉に着目するのではなく、身体全体でのスムーズな動作を鍛えようという考え方こそが『ファンクショナルトレーニング』であり、また、実は筋肉そのものも「様々な動作を繰り返すことで自然と発達していく」(『Athletic Body in Balance』:Gray Cook著)わけです。
賢明な方ならお気づきかもしれませんが、乱暴な言い方をしてしまえばこれは当たり前の考え方であるとも言えます。様々なエクササイズを処方する際に、走る、跳ぶ、投げるといったヒトとしての基本動作を考慮するのは当然のことですし、一つ一つのエクササイズにおいてもいわゆる「正しい動作」を指導しないわけにはいきません。つまり、何か特殊なトレーニングメソッドというよりも、機能解剖学やバイオメカニクスと同じように運動指導員が学び、考えるべき基本概念の一つが『ファンクショナルトレーニング』であると言えるでしょう。
歴史的に言えば、それまで曖昧に捉えられがちだった『動作を鍛える』この考え方が改めて体系づけられ発表されたのは1990年代頃であり、理学療法士のGary Grayが発表し、その後Gray CookやMichael Boyleといった著名なトレーナーの方々により発展、広められて来ました。我が国でも鈴木岳さんや友岡和彦さんら第一線でご活躍中のトレーナーの方々が著書や数々のセミナーでレクチャーして下さっています。
ただ、『動作を鍛える』トレーニング概念であるためか、よくある誤解の一つとして難しいエクササイズをいきなり処方してしまったり、また、それらばかりを指導してしまうケースもあるようです。例えば、片脚でスクワットを行いながらケーブルを引っ張ってスイング動作をする…というようなエクササイズは“いかにも”ファンクショナル=機能的ですが、そのためにはコアの安定性やバランス感覚、柔軟性など様々な要素をまずは鍛える必要があり、ダイエット目的で初めてフィットネスクラブに来た主婦の方にのっけからこんなエクササイズを処方するようなことは現実的ではないでしょう(苦笑)。
反対に、一見“ファンクショナルでない”エクササイズでも『ヒトとしてのスムーズな動作』を考えた上で処方、指導すればそれは立派なファンクショナルトレーニングであるとも言えます。例えば、アームカールはただ単に肘を曲げのばしするだけに見えますが、そのためには姿勢を整え「動かすべき部分」と「固定すべき部分」をしっかりと連動させる必要があるわけです。これはもう立派なファンクショナル=機能的なエクササイズですよね。
つまり、結局は全てにおいて「ファンクショナルでないトレーニングなどあるのでしょうか。」(東海大 有賀誠司教授:『トレーニング・ジャーナル』2012,4月号)という問題提起が出来ますし、これまた繰り返しになりますが、だからこそ何か特殊なメソッドなどではなくトレーニングを考える上での大切な基本概念の一つだと考えられるわけです。
「正しいファンクショナルトレーニングのプログラムを作成するための鍵は、特別な方法をあまり適用しないこと」(『写真でわかるファンクショナルトレーニング』:Michael Boyle著/中村千秋訳)という言葉もあります。これらは正にその通りだと思います。全くの余談ですが、実はF Fitness SupportのFもそうした意(Fundamental, Functional)を込めてつけさせて頂いています(笑)。
大安売り中の(?)『ファンクショナル◯◯』ですが、そんなことを思い出してみるとより充実したトレーニングが出来るのではないでしょうか。
以前のコラムでもお伝えしましたが、トレーニングは取り組む皆さんこそが主役です。きらびやかな謳い文句や一見特殊なメソッドに惑わされることなく、「今の自分に必要なトレーニング」を見つめましょう。そして、我々運動の専門職に是非お気軽にそうしたこともご相談してみて下さい。