コラム:ディズニーランドに負けないために
仕事の関係もあって最近はフィットネスクラブに一利用者としてお邪魔させて頂く機会が今まで以上に増えていますが、利用者の側に立ってみることでトレーナーとしても業界の一員としても改めて色々なことに気付かされ、大変勉強になっています。例えば、
①:いわゆる「お風呂会員」(ジムやプールは利用せず、仕事帰りにお風呂だけ利用されることの多い会員)さんの気持ち
②:利用者として聞くトレーナー、インストラクターの「声」
③:会員さんの目は節穴じゃないこと
などは実際に会員さんに混じって施設を利用させて頂く中で、なるほどと思わされた部分です。
①に関しては、これはもう使ってみれば分かります。大きなお風呂や綺麗なロッカールーム、パウダールームは公共施設や学校の設備ではほとんどあり得ません。ましてや、それが露天風呂だったり天然温泉だったりした日には、そのクラブにとっての圧倒的なセールスポイントになるでしょう。「このためだけに会費を払っているんだよ(笑)」と仰る会員さんがいるのも大いに頷けます。もちろん、そのためにトレーニングも頑張って欲しいのですが(苦笑)。余談ながら、国際レベルで活躍するトップアスリートさんへのアンケートでも、遠征拠点への配備リクエストで最も多いのがお風呂だそうです。
②は、トレーナーとして現場レベルで勉強になる部分です。ジムでトレーニングをしていると、傍らで指導されているパーソナルトレーナーさんやジムスタッフさんの声が聞こえてくることがあります。立ち聞きするわけではありませんが、分かりやすく、かつ楽しそうにクライアントさんとやりとりしているトレーナーの声を聞くとやはり自然とその声の主を探してしまいますし、反対に必要以上に喋りすぎていたり、なんだか「上から目線」なトレーナーさんも逆の意味で印象に残ってしまいます。言わずもがな、こうした個々の印象の積み重ねがジムそのものの印象にも繋がりますから、目の前のクライアントさんのトレーナーであると同時に施設のトレーナー(たとえそれが場所をお借りしているパーソナルトレーナーであっても)としての意識を持って、見た目だけではなく語り口や言葉遣いなども今まで以上に大切にせねば…と改めて身が引き締まりました。
③はロッカールームで会員さん同士のこんな会話が聞こえてきたことがきっかけです。
「〇〇先生、いなくなっちゃうんだって?」
「そうなんだよ。やっぱ経費削減だかなんだかでさ、ここ(クラブ)の中のスタッフでも回せるような簡単なレッスンばっかりになってきちゃうみたいだねえ。」
「そうなんだぁ…。やっぱ専門家に教わりたいよな~。」
このコラムでも度々書いていますが、多くのフィットネスクラブは未だに、何の教育も受けておらず居酒屋やコンビニのアルバイトと同様の感覚で応募してくる学生やフリーターを、スタッフの頭数を確保するためだけに採用してしまっています。(フィットネスクラブ勤務時代、自らの不勉強・志のなさを棚に上げて「トレーナーじゃなきゃダメなんですか!?」と真顔で逆ギレしたアルバイトもいたほどです。もちろんそんな人間を採用したのは私ではなく前任者なのですが…)
契約形態はどうであれ、会員さんのお身体をお預かりする専門職としての意識と誇りを持って現場のスタッフ陣が業務に従事していれば、少なくともこの会話が、
「〇〇先生、いなくなっちゃうんだって?」
「そうなんだよ。でも4月から××君が、新しくトレーニング教室みたいなのをやってくれるらしいよ。」
「それも面白そうだねえ。××君、若いのに色んなこと詳しいからな~。」
「よく勉強してるよね。俺もこの間、ちゃんとしたスクワットのやり方ってのを教わってさぁ。新しいクラス、一緒に出てみる?」
のように、前向きなものになったかもしれません。
何が言いたいかというと、“会員さんの目は節穴ではない”ということです。「お金を頂いて快適なフィットネスライフを提供する専門職」という自覚と志を持って働く人間のことをお客様はちゃんと見ていてくれますし、逆に、お腹の出た説得力のない身体でクラブ内をうろうろしていたり、煙草をスパスパ吸っているようなスタッフに関しては全く信頼してくれません。「誰がプロか」を彼ら・彼女らはよく分かっているのです。
こうしてみると、やはり既存のフィットネスクラブの多くの課題は、ハードではなくソフト面にあると言えそうです。綺麗なお風呂や立派なスタジオやジムなどは予算の乏しい公共施設などが逆立ちしてもかなわない部分ですが、決して安くない会費をただそれだけの施設利用料とさせてしまうのは余りにももったいないですし、申し訳ない話です。
例えば、同じ人件費を払うのならばアルバイト雑誌で「経験不問」などと求人するのではなく、大学や専門学校のトレーナー学科と提携して、ある程度の経験を積んだ学生の更なる現場実習の一環として受け入れるだけでもスタッフレベルは格段に上がるのではないでしょうか。運動の現場だけではなく、フロントやマネジメントも同様です。商学部や経営学部などを見れば、接客や経営のスペシャリストを目指す若者達は必ずいますから、厳正な審査のうえでそうした人材をアシスタントとして採用すればいいと思うのです。そうすれば、会員さんたちも「お風呂にお金を払っている」のではなく、「沢山のスペシャリストがいて自分の健康を守ってくれるクラブそのものにお金を払っている」気持ちになってくれるのではないでしょうか。
利用者としてフィットネスクラブという空間を訪れるたびに、お世辞抜きに「凄いなあ」と思います。沢山の器材が置かれたジムがあって、プールがあって、スタジオがある。ロッカールームは綺麗だし、大きなお風呂もある。プロテインやウェアまで販売している。だからこそ、そこで働くスタッフは専門職集団(もちろん“専門バカ”ではない)でなくてはいけませんし、選ばれたライトスタッフであるべきです。コンビニやファーストフードのアルバイトと同列に語られるようなことがあっては、断じてならないと信じています。
ディズニーランドやユニクロではアルバイトの公募にもかかわらず、応募が殺到すると聞きます。そう遠くない未来、フィットネスクラブもそうした職種になるよう業界の末席として少しでも貢献していきたい、と思うのです。