憧れを持とう

「目標とするトレーナーさん、トレーニング指導員さんは、例えばどなたですか?」

 セミナーや勉強会で学生トレーナーさんや若手の指導員さんにお会いした際、私が必ずさせて頂く質問です(単純な自身の興味もあってですが)。

 最も多い回答が、一瞬考えた後に自分の学校の先生や直属のチーフトレーナーさんを挙げるケースです。

 それはそれで素晴らしいと本当に思います。やはり、日々知識や技術を教えてくれ、目の前で見事な仕事ぶりを見せてくれる姿は何よりも説得力がありますし、そうした身近な存在への憧れは大きなモチベーションともなるでしょう。
 ただ、逆に言うとそれ以外、いわゆる「外の世界」の方々の名前を挙げる人が意外に少ないことが残念でもあります。

 例えば、ファッションデザイナーとして働く人やそこを目指して勉強する学生達は、どこの会社、どこの学校に所属していてもアルマーニの名前を知っているでしょうし、「イッセイ・ミヤケさんのデザインが好きなんです!」と語り合える人たちもその中には沢山いることでしょう。
 他のジャンルも同様です。スポーツ選手などは最も分かりやすい例の一つで、世界中の若きサッカープレイヤーたちが「メッシ選手のようなドリブルがしたい」「私、キャプテンだから澤選手のリーダーシップを参考にしよう!」と目を輝かせています。

 トレーナー業界は、そういった“憧れ”や“大きな目標”がまだまだ少ないように感じるのです。

 冒頭の質問をさせてもらった際に、例えば、「窪田登先生です!」と言いながらサイン入りの著書を持ち歩いていたり、「自分は専門学生ですが、東海大学の有賀誠司先生のように、基本を大切に、常に謙虚な姿勢で指導や教育活動に取り組めるようなトレーニングコーチになりたいと思っています!」と熱く語り出すぐらいの若者には未だかつて出会ったことがありません。そもそもそういった大先輩の方々のお名前を知らない場合も多いようです。

もったいないなぁ、と思います。  

 ご存知の通り、トレーナー業界はまだまだ未成熟ですが、だからこそいわゆる「横の繋がり」も強く、そうした方々から教えを頂きやすい環境であるとも言えます。第一線のトレーナーさんでも、少人数のセミナーや分科会で文字通り「顔の見える」距離でゼミ形式のような講義をして下さることもあるほどです。更に言えば、そうやってご活躍されている方々ほど実に気さくで、知識や技術を惜し気もなく快く教えて下さる場合がほとんどです(少なくとも、私はそう感じています)。

 かく言う私自身も、体育大学やトレーナー養成学校を出ているわけではありませんが、第一線を走り続ける指導者の方々からそうやって実に様々なことを教わる機会に恵まれて来ました。そして、その先輩方が自分にとっての“憧れ”、“大きな目標”となってくれています。

 若者たちとの交流の後半、そうした方々のお名前やご実績を紹介させて頂きつつ、機会があればセミナーを受講したり、著書を手にとってみることを勧めさせて頂いています。

「間違っても、『伊藤謙治さんです』 なんて言ってちゃダメだよ!」

と、付け加えることも忘れずに…(笑)。