若者の言葉

 トレーナーを育成する専門学校の就職ガイダンスに呼んで頂いた際、熱心な学生が悔しそうに語ってくれたことが印象に残っています。

「フィットネスクラブの面接に行くと、周りには経済学部や法学部とかの大学生も沢山いて、全体的に彼らの方が評価が高い印象です。経営や親会社を運営するような部署の人材募集ならまだ納得できます。僕達は経済のことや法律のことを専門に学ぶ機会が少ないですから…。でも、『入社の暁にはクラブで現場に立ってお客様に運動指導してもらう』と会社側は言います。トレーナーやインストラクターの業務をしてもらうっていうことですよね? にもかかわらず面接でスポーツ医科学に関連する質問をされることはほとんどありません。正直、悔しいです。僕達は4大卒じゃありません。でも、トレーニングのこと、スポーツ科学のことを勉強したいからこそ、この学校を選んだんだし、それを通じて人様の身体をお預かりするっていうことに関しては、経済学部の学生に遅れをとっているとは思えません。マネジメントならマネジメント、トレーナーならトレーナーとしての面接をして僕達をきちんと評価して欲しいんです」  

 そうだよなぁ…と本気で思います。と同時に、業界の先輩として同様に悔しく、そして申し訳ない気持ちにもなります。

 例えば親会社がスポーツ用品店のフィットネスクラブだと、昨日までウェアを販売してレジを打っていた人が突然「チーフトレーナー」としてクラブに赴任してきてしまうようなこともあるのがフィットネス業界の現実です。専門学校や大学のトレーナー養成学科に通っているアルバイトスタッフがいれば、彼らの方がトレーナーとしての専門知識は遥かに持っていることになるのです。もちろん、トレーニング指導も「人対人」の仕事ですから、社会人としてのマナーやいわゆるコミュニケーションスキルに負うところが大きいことは否定しません。ですが、それも専門職としての基礎知識や技能があってこそです。「特異性の原則って何ですか?」「クイックリフト? 何それ?」みたいな人が指導に当たるのはそうした大前提を踏み外していると言えるでしょう。乱暴なたとえかもしれませんが、現在のフィットネスクラブ(スポーツクラブ)の多くは、医学を学ぼうとしたことすらない人が白衣を着て「あなたを診察します」とやってしまっている病院のようなものなのです。

何も出来ない自分自身に歯がゆい思いをしながら、私は彼らにこう返答するのです。「業界の先輩として申し訳なく思う。でも、そんな人たちばかりじゃないことも分かって欲しい。専門職が専門職として生きられるように、正当に評価されるように、我々の世代も微力ながら活動しているんだ。フィットネスクラブにもそうした悪しき習慣を中から何とか変えようとして頑張っている仲間だっている。僕達が、そして君たちが声を上げ続けることできっと変わるから。何よりも、スポーツ医科学専門職としての誇りを持って職務に当たり続けることで、クライアントや選手がきっと分かってくれるから。月並みな言い方だけど、『正義は勝つ』って俺は信じているよ(笑)。だからそのときまで、お互いにトレーナーとして戦い続けよう。いつか、現場で会えるといいね」

 このコラムでも毎度毎度語っていることですが、トレーナーの仕事は居酒屋やコンビニのアルバイトとはわけが違います。志を抱く若い世代が活躍する場を埋もれさせてはいけない。奪ってはいけない。

 F Fitness Supportは専門職が専門職として評価される日が来ることを本気で信じていますし、そうした活動を心から応援しています。