クイックリフトを知っていますか?

フィットネスクラブのトレーニングジムに行くと、ほぼ必ず「ダンベルやバーベルは静かに扱ってください」「挙げるときは息を吐きながら2秒程度で、降ろすときは息を吸いながら4~5秒でゆっくりとウェイトをコントロールしましょう」などといった掲示物を目にします。安全性や、一つ一つのエクササイズを筋肉にしっかりと“効かせる”という点ではもちろんそれは正解です。が、人間の身体にはそうしたトレーニングだけではなかなか鍛えることのできない、大切な運動能力も多数存在します。

例えば、「階段を駆け下りようとした際に足をグッと踏ん張りきれず、転倒しそうになっちゃったよ。いいトレーニングはないかな?」というお年寄りがいらっしゃったとします。階段を駆け下りるという行為は、重力の働きによって体重の何倍もになる負荷を、素早い動きの中で下半身を中心に瞬間的に受け止めるような動作です。ということは、当然ながらトレーニングでもそうした要素が必要になってきます。にもかかわらず、ひたすら「ゆっくりとトレーニングしましょう」「下りるときは4秒ぐらいで…」などとやっていては、仮に扱える重量自体は上がったとしても、本来の目的である「階段を怪我なく駆け下りられるだけの運動能力」がいつになっても獲得できないことになってしまいます。

また、若者でも「瞬発力をつけてもっと高くジャンプしたいんです!」とトレーニングにやってくる運動部の学生さんなどは多いでしょう。瞬発力(スポーツ科学の世界では「爆発的筋力」などと言われます)は文字通り“瞬間的により大きな力を発揮する能力”なのに、ここでもまた「マシンでゆっくり筋肉を意識して…。」などとばかりやっていてはいつまでたっても高く跳ぶことができず、ただ単に時間を無駄にしてしまうことにもなりかねません。

これらの体力要素、すなわち、「瞬間的なパワー発揮」や「必要なときに力をグッと入れられるような身体の効率的な使い方」などを身につけるのに大変有効なエクササイズの一つが「クイックリフト」と呼ばれる、クリーンやスナッチなどのエクササイズです。これらはウェイトリフティング(重量挙げ)の技術としても知られており、バーベルやダンベルを文字通りクイックに、素早く持ち上げてそれをしっかりと受け止めるような動作によって成り立っています。ウェイトリフティングと聞くといわゆる“力持ち”の人たちのもの、というイメージがあるかもしれませんが、上記のようにヒトとして必要な様々な運動能力を鍛えることができるので、女性も含めた様々なアスリートが行っていることでも知られていますし、また、正しいフォームを教わればアメフトやバスケットボールといった他のスポーツ競技よりも怪我の発生率はむしろ低い=安全性が高いということも立証されています。

そして、一般の人には意外に知られていないことですが、この「クイックリフト」はいわば“トレーニング指導者の必修科目”の一つなのです。アスレティックトレーナーやストレングス&コンディショニング・コーチ、パーソナルトレーナーなど様々なトレーナーの資格がありますが、しっかりとした基礎教育を受けているトレーナーならばどこの団体のどんな肩書きであれ、この「クイックリフト」をしっかりと指導できるはずです。

かねてからこのコラムでも述べている通り、一般のフィットネスクラブや公共施設では、そうした最低限のスタッフや設備がまだまだ整えられていないのが現状です。乱暴な言い方をしてしまえば、トレーナーとは名ばかりの、全く関係ない分野の学生やフリーターが現場に立っていたり、クイックリフトの実施などハナから念頭にないレイアウトになっているようなジムが少なくありません。逆に言えば、ご自分の通うジムで、「『クイックリフト』を教えて下さい」と質問した際、スタッフの誰もがしっかりとしたお手本とともに解説してくれるようならば、それはとても素敵なことだと思います。

ジムのスタッフに、一声かけてみませんか?
「『クイックリフト』、教えてくれますか?」