フィットネス界の都市伝説
スポーツクラブやフィットネスクラブのトレーニングルームで必ずと言ってよいほど目にするのが、「ダンベルやバーベルなどのフリーウェイトは上級者向けですから、初心者の方や体力に自信のない方はマシンから...」などといった指導風景です。が、果たしてそれは本当でしょうか? トレーニング初心者がベンチプレスやスクワットを行うことはそんなに危険なことなのでしょうか? 逆に、トレーニング愛好家がマシンを利用することには何のメリットもないのでしょうか?
ここで改めて、マシンとフリーウェイト、それぞれの長所と短所を整理してみましょう。トレーニングマシンの多くはその名の通り、常に一定の動作をするマシンによって筋肉に負荷をかけ、肩のエクササイズ、腿のエクササイズなどと言ったように、身体をさまざまなパーツごとに鍛えることができるものです。つまり、
1:エクササイズ動作はマシンが勝手にガイドしてくれるのでトレーニングフォームが安定していなくてもある程度は大丈夫 (座った状態で行うものも多い)
2:狙った筋肉だけを鍛えやすい
という長所があります。が、これは逆に言えば、 1':日常生活やスポーツの動作からかけ離れた、一定の不自然な動作しか出来ない 2':身体の一部分ばかり鍛えることになるので、全身が関係する「姿勢」や「動き」といった要素は向上しにくい
という短所にもなります。例えば、「足腰が弱ってきて階段の上り下りも一苦労...」というお年寄りにトレーニング指導させて頂く際に、低体力者だからという理由だけで、レッグ・エクステンションなどのようなマシンに座ってのエクササイズばかり選択したらどうなるでしょう。太腿だけ、内股だけ、といった部分ごとの筋力は上がるかもしれませんが、肝心の「階段を上り下りする動作=地面に立って自らの体重を支える動作」に関する運動能力はそれほど上がらず、結果としていつまで経ってもトレーニング効果が現れない...ということにもなりかねません。
こうしたケースでは、初心者や低体力者だからこそ、むしろ最初から適切なフォームでのスクワットなどをしたほうがよい場合もあるのです。逆にダンベルやバーベル、時には自体重のみで行うフリーウェイトの長所と短所は、
3:文字通り、比較的“フリー”な動きが可能なため、日常生活やスポーツ動作を考慮したトレーニングがしやすい
4:さまざまな筋肉を同時に、バランスよく働かせることが出来るため、筋肉そのものだけでなく「姿勢」や「動き」も鍛えやすい
という利点と、
3 ́/4 ́:“フリー”な動作の中で「姿勢」や「動き」も鍛えることができるからこそ、最初にしっかりしたフォームを身につける必要がある
といった注意点になるのではないでしょうか。
こうして考えると、「初心者向け」「上級者向け」などといった単純な分け方をするのではなく、それぞれの長所と短所を踏まえて目的に応じて組み合わせていけばよいのだということがよく分かります。
例えば前述のお年寄りのような方は、自体重でのフリーウェイト・エクササイズを中心にして日常生活の「姿勢」や「動き」も意識しながらトレーニングしつつ、弱点となっている下半身はマシンでさらにもう一押しのトレーニングをしておく...といったようなことも出来るはずです。特に昨今は、ファンクショナル・トレーニングやムーヴメント・トレーニングといった「ヒトとしてのスムーズな動きづくり」にフォーカスしたトレーニングの概念がフィットネスの現場にも浸透して来ました。逆に言えば、施設を利用される方々も、(厳しい言い方かもしれませんが)アルバイトがマシンの名前を適当に並べただけの“トレーニングメニュー”ではそれぞれの目的に応じた身体づくりができないということに気づいてきたのだと言えるでしょう。
初めてジムを訪れる方々が安心して「人生初のスクワット」や「一度やってみたかったベンチプレス」に取り組むことが出来るような(?)、本当の意味での“トレーニングルーム”がもっともっと増えるといいな、と思っています。